企業にとっては収益を確保することと同じように、資金繰りは非常に重要です。

資金繰りを悪化させる大きな原因が取引先の売掛債権の未払いです。

売掛債権が未払いになってしまうと、損益計算書上は利益があるにも関わらず売上金が入金にならずに資金ショートしてしまうリスクがあります。

売掛金の未払いが起きたらどのように回収すべきなのか、自社でできる対応と法的な対応に分けて解説していきます。

事前に未払いに予防する方法も紹介していきますので、取引先の未払いに悩んでいる方や、未払いが心配な人はぜひご覧ください。

 

未払いの売掛金の回収方法

自社でできる未払いの売掛金の回収方法として以下の4つをあげることができます。

  • 期日を過ぎたらすぐに督促する
  • 商品やサービス提供の停止
  • 相殺できる債務を探す
  • 私署証書を作成する

基本的には上記の対処は上から順に段階的に行なっていき、強い対処法ほど後に行うべきでしょう。

未払いの売掛金の回収方法について詳しく解説します。

期日を過ぎたらすぐに督促する

売掛債権の支払期日を過ぎたら、できる限りすぐに督促するようにしましょう。

期日を過ぎたのに督促をしないと相手は「まだ払わなくていいのか」と解釈し、翌月からも当たり前のように支払いに遅れるようになってしまうことが多くなります。

売掛先も複数の支払先を抱えており、支払先にどの順番で支払うかの優先順位をつけている企業が少なくありません。

そして優先順位を決める要素の1つが「期日に遅れるとうるさいかどうか」ということが多いため、期日に遅れて黙っていると支払いの優先順位はどんどん後回しにされてしまいます。

「この取引先は遅れるとうるさい」と思わせるために、まずは期日を過ぎたらすぐに督促するようにしてください。

商品やサービス提供の停止

督促を行なっても支払いがない場合や、「〇〇日までには支払う」と言っておきながら支払いがない場合には商品やサービスを提供することを一時的にストップしましょう。

ストップさせたことによって売掛先が代金を支払うかもしれません。また、何よりも支払いがない先に対して商品やサービスを提供することは、提供した分だけ自社の損失が拡大してしまう可能性が高いためです。

得意先を失ってしまうことに対して不安を感じる人もいるかもしれませんが、入金がない取引先は思い切って切ることも重要です。

督促しても一定期間支払いがない場合には、どこかのタイミングで「商品やサービス提供を停止する」と予告して、取引をストップさせましょう。

相殺できる債務を探す

売掛金が未入金になっている取引先に対して相殺できる債務を自社が抱えていないかどうかを確認しましょう。

例えば、取引先に対して100万円の売掛金を抱えており、同じ取引先に対して自社も20万円の買掛金を抱えている場合には、売掛金と買掛金を相殺して80万円だけ請求すればよいことになります。

売掛先に対して債務を抱えているのであれば、まずは債務と売掛債権を相殺する必要があります。

相殺できる債務がないかどうか確認しましょう。

私署証書を作成する

売掛金の存在を明確にするために私書証書を作成しましょう。

私文書に文書作成者が記名押印または署名したものを私署証書といいます。
また、私文書とは私人により作成された文書であり、公文書以外の文書を指します。

私署証書として売掛債権の弁済についての文書を作成する場合、債権の発生原因を(いつ、どのような商品・役務を提供し、その代金がいくらであるかを明確に)特定し、印鑑証明書を添付してもらうようにします。

この私署証書は「合意書」として当事者双方が記名押印する形をとっても構いませんが、取引先から差し入れる「念書」または「確約書」という形でも差し支えありません。

これによって、「〇〇月〇〇日付で売掛金が〇〇円存在する」ということを明確にしておくことができます。

私文書であるため、未払いで直ちに差し押さえ等の強制執行手続に移れるわけではありませんが、裁判では争う余地がありません。

確実に支払いの確定判決を得られるため、同等の効力を持つと言えます。

売掛債権の時効と中断条件

売掛債権には時効があります。

未払いのままいつまでも回収しないと、時効が成立してしまい回収することが不可能になってしまいます。

時効は比較的簡単に中断することができるので、時効を中断させ未払いの売掛金を法的な手続きによって回収する方法を理解しておきましょう。

売掛債権の時効は5年

売掛債権の時効は5年で成立すると理解しておきましょう。

民法には以下のように明記されています。

債権者が権利を行使することができることを知った時から5年
新民法166条1項1号

「債権者が権利行使することができることを知った時」というのは要するに支払い期限のことで、支払期限到来から5年が時効ということになります。

ただし、これは2020年4月に施行された改正民法によって5年と変更され、以前は売掛金の事項は2年でした。

つまり、2020年4月以降に発生した売掛金については5年で時効になりますが、2020年3月以前に発生した売掛金については2年で時効となってしまうので注意しましょう。

未払いの売掛債権がある場合には、まずは「時効まであと何年か」を把握して、回収を急ぐようにしましょう。

時効中断の3つの要件

売掛金の時効は期限から5年経過すれば無条件で成立してしまうわけではありません。

時効は以下の3つのいずれかを行うことによって中断させることができます。

  1. 債務の承認
  2. 請求
  3. 差押え、仮差押

長期に渡って未払いの売掛金を抱えている場合には、時効の中断要件を覚えておくことが大切です。

時効を中断させる3つの方法を理解し、時効中断後に売掛債権の早期回収を図りましょう。

①債務の承認

債務の承認とは、売掛先が債務を抱えていることを認めるということです。

これによって時効は中断します。

②請求

裁判上の手続きで請求を行うことでも時効は中断します。

支払督促・少額訴訟・民事訴訟などの法的手段で請求をすれば時効をストップすることが可能です。

③差押え、仮差押

裁判所に売掛先の財産を差し押さえられることによっても時効は中断します。

ただし、差し押さえは支払督促や訴訟の結果として行われることが一般的ですので、いきなり差し押さえによって時効を中断させるということは現実的とは言えないかもしれません。

時効を中断させる方法①催告書を送付する

時効を中断させるためにはまず催告書を送付するようにしましょう。

催告書とは支払いを滞納している債務者に対して「何月何日までに入金してください」という支払期日と滞納金額が明示されている請求書で、内容証明郵便で送付するのが一般的です。

催告書を送付することによって時効は6ヶ月間停止します。

つまり、催告書の送付によって6ヶ月の時間を稼ぐことができるのです。

この6ヶ月の間に法的手段などによって時効を中断させることができるので、まずは催告書によって時効を停止させ回収手段へ移りましょう。

時効を中断させる方法②債務を承認させる

最もコストもかからず、簡単に時効を中断させる方法が債務の承認です。

例えば「代金を払ってください」と請求したところ「分かっています。少し待ってください」とか「今は払えません」など、債務があることを認識している文言を言えば、それは債務の承認になり事項は中断します。

ただし、言ったかどうかなどは証明することができませんので、例えばボイスレコーダーに録音しておくとか、メールやLINEの履歴を保存しておくなど、債務の承認を行なったことを証明できるようにしておきましょう。

また、売掛債権の1部だけを弁済してもらうことでも時効は中断します。「たった1万円でもいいから支払って欲しい」と督促し、相手が支払いを行えば時効は中断するので理解しておきましょう。

時効を中断させる方法③支払督促を行う

支払督促とは簡易裁判所に申し立てを行い、裁判所から「債務を支払いなさい」という督促をしてもらうことです。

支払督促を受け取ってから2週間以内に異議申し立てをしない場合には財産の仮執行が行われ、時効は中断します。

支払督促は費用も手間もかからないので、最も簡単に時効を中断させることができる方法の1つです。

時効を中断させる方法④少額訴訟を行う

少額訴訟を行う方法でも時効を中断させることができます。

少額訴訟とは60万円以下の金銭の支払請求について争う裁判制度で、まさに未払いの売掛金を請求するために存在する制度と言っても過言ではありません。

少額訴訟は1回の審理ですぐに判決が出ます。

時間もお金もかからない非常に簡易な裁判制度ですので、未回収の売掛金が60万円以下で話し合いや調停で解決できない場合には利用しましょう。

もちろん、少額訴訟でも時効は中断します。

長期間未払いの売掛債権がある場合は、まず事項を中断させ、いずれかの方法で回収を図るようにしてください。

売掛債権の未払いを防ぐには

そもそも取引先から売掛債権の未払いが発生しないことが最も好ましいと言えます。

あらかじめ売掛債権の未払いを防ぐ方法としては以下の3点をあげることができます。

  • 基本契約書を公正証書で作成する
  • 保証ファクタリングを利用する
  • 買取ファクタリングで早期資金化する

売掛債権の未払いを防ぐ3つの方法について詳しく解説していきます。

基本契約書を公正証書で作成する

取引先と最初に契約するときには、基本契約書という契約書を作成することが一般的です。

この契約書を公正証書で作成しておくことで未払いを防ぐための大きな抑止力となります。

公正証書による契約が不履行となった場合には、裁判なしで財産を差し押さえることが可能になります。

売掛債権の未払いがあった場合には、すぐに財産を差し押さえられてしまうので、売掛先は自社に対する支払いを優先するようになり、期日通りの支払いを促すための大きな抑止力になります。

取引先に対して期日通りの支払いを促すために、公正証書で契約書を作成しておきましょう。

保証ファクタリングを利用する

売掛債権に対して保証ファクタリングを利用するのも1つの有効な手段です。

保証ファクタリングとは、売掛債権に対してファクタリング会社の保証をつけることです。

もしも売掛債権がデフォルトした場合にはファクタリング会社が売掛債権の残金を保証してくれるのでリスクはありません。

新規取引先などは信頼できる企業かどうかが不透明ですので、保証ファクタリングを利用しておけば安心です。

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買取ファクタリングで早期資金化する

買取ファクタリングでファクタリング会社へ売掛債権を売却し、早期資金化してしまうのも有効な方法です。

早期に資金化することによって会社の資金繰りは円滑になりますし、なによりも売掛債権が未払いになった時の損失はファクタリング会社が負ってくれます。

売掛債権に対して恒常的にファクタリングを利用することによって、売掛先がデフォルトしても安心です。

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売掛金の未払いに関してよくある質問

期日のすぎた売掛債権はファクタリングできませんか?
期日を過ぎてしまったらファクタリングすることはできません。
ファクタリング会社が買い取りを行うのは正常な売掛債権だけで期日を過ぎた不良債権の買い取りはしません。
ファクタリングを利用するのであれば、期日到来前に利用してください。
また、期日を過ぎた不良債権はサービサーと呼ばれる債権回収会社へ売却することができる場合があります。
売掛金の未払いのリスクを教えてください
売掛金が未払いになってしまうリスクは黒字倒産です。
黒字であるにも関わらず、売掛金が未入金であるために支払いができずに倒産してしまいます。
倒産の半分が黒字倒産だと言われるほど、多くの企業が売掛債権の未入金に苦しんでいますので、売掛金管理は厳格に行いましょう。
売掛金の未払いが多い取引先とはどの程度の遅れで取引中止を検討すべきでしょうか?
頻度は取引規模に応じて決定すべきでしょう。
普段は期日通りに支払うもののたまに遅れてしまうという程度であれば取引を継続した方がよいかもしれません。
逆に督促してもすぐに支払いに応じない先や、徐々に遅れが長くなっているような取引先は取引の継続を断ってもよいでしょう。
入金に遅れる頻度や、取引状況に応じて個別に取引の継続を検討しましょう。

まとめ

売掛金の未払いが長期化すると自社の資金繰りが悪化して、黒字倒産になってしまう可能性があります。

売掛金の未払いが起きたら早期に督促するなどして、できる限り早期回収に努めましょう。

また、未払いが発生し自社に損失が及ばないように、

  • 基本契約書を公正証書で作成する
  • 保証ファクタリングを利用する
  • 買取ファクタリングで早期資金化する

などの方法であらかじめ対処をしておくことをおすすめします。

また、長期間の未払いがある場合には時効を成立させないように、まず時効を中断させ、その後、速やかに法的措置も含めた方法での回収を検討しましょう。